「強み」アプローチの科学的根拠とは?
一般社団法人ストレングス協会は従来のカウンセリングとは異なり、アメリカで生まれた最先端の心理学であるポジティブサイコロジーの理論を応用し、お子様の「強み」を活かして不登校・ひきこもり支援を行っています。ここでは、なぜ引きこもり状態から一歩を踏み出すためには「強み」が重要なのかを理論的・科学的な根拠を元に説明します。
- PART1:心理的苦痛を取り除くと、不登校・ひきこもり状態が改善されるのか?
- PART2:「強み」とは何か?
- PART3:「強み」の科学的エビデンス
- PART4:「強み」を活かしたある男の子のケース
PART1:心理的苦痛を取り除くと、不登校・ひきこもり状態が改善されるのか?
そもそも従来のカウンセリングには、誰もが疑わない、ある「大前提」があります。それは「不安や苦痛などの悪い部分を最小限にすれば、人は幸せになる」ということ。これは心理学の巨匠であるフロイトが提唱した心理学の「大前提」です。これまで心理学という学問はこの「大前提」をもとに成立し、研究者たちは「どのように不安や苦痛などの悪い部分を取り除こうか?」という命題に多くの時間とエネルギーを費やします。無論、日本で学習された大半のカウンセラーも、この「大前提」をもとに専門的な勉強をしています。ですから、カウンセラーが望む最高の形とは、最適な治療により、苦痛と悲惨さを可能な限りゼロに近づけることなのです。
これは不登校やひきこもりの場合でも同様で、多くのカウンセラーはこの「大前提」に従い、「心理的苦痛を取り除くと、学校・社会復帰できる」と当たり前のように考え、心の悩みを傾聴し、それを吐き出させる形で支援にあたっています。専門的に心理学を学んでこられたカウンセラーであればあるほど、この「大前提」に忠実に従い、これまで学んできたことを実践しているのです。あの心理学の巨匠が提唱することだから間違いないと。
しかし、21世紀に入り、この「大前提」に疑問を抱き、公で真っ向から否定した心理学者が現れました。それがペンシルベニア大学教授、当時のアメリカ心理学会会長であったマーティン・セリグマン博士です。
セリグマンも若い頃、同じようにこのフロイトの「大前提」を鵜呑みにしていました。しかし、臨床経験を積んでいくうちに、どうもこの「大前提」はおかしいと疑問をもち始めたのです。そしてその疑問が確信に変わった時、アメリカ心理学会会長就任を契機に、彼はこれまで何十年も正しいとされていたこの「大前提」を大胆にも否定したのでした。この「大前提」は「実験的に誤りであり、道徳的に陰険、かつ、治療的な行き詰まりであると信じるようになった」と。なぜなら心理的な苦痛や悲惨さ等のマイナス面ばかりを研究しても、幸福感や強み等のプラス面に関しては無知のままであり、患者が真に価値ある人生を送るためには、むしろ、そのプラス面にこそ重要な何かがあるのではないか?と考えたからです。以来、セリグマンは人間のプラス面を研究する「ポジティブサイコロジー」という新しい心理学の設立に人生の全てを捧げました。
ポジティブサイコロジーは1998年以降、米国を中心に爆発的な人気を博し、また研究が進むにつれて、フロイトの「大前提」を覆すような発見が次々と報告され始めたのです。
特に不登校・ひきこもり支援の文脈で注目すべき研究報告は、米国エモリー大学教授であるCorey Keyes博士が実施したもので、それはそもそも「精神疾患 (Mental illness)」と「精神的健康 (Mental health)」は全く異なるものであることが明らかになった研究です。従来の心理学では「心理的苦痛や悲惨さ(精神疾患)を取り除けば、人は幸せになる」と考えられていたのに対し、「精神的健康」は「人生の目的」や「自己成長」「自主性」「社会貢献」など、「精神疾患」を構成する要素とは全く異なるものであることが報告されたのです。
勿論、うつ病などの精神疾患を理由に不登校やひきこもりになるケースもあり、従来の「心理的苦痛」を取り除くカウンセリングが効果的な場合もあります。しかし、精神疾患とは診断しがたい、多くの不登校やひきこもりの若者にとって、カウンセリングに行き、「精神的苦痛」を取り除こうとしたけれど意味がなかったという事例が後を絶ちません。なぜならKeyes博士の研究が示唆するように、不登校・若者ひきこもり支援で最も重要なことは、実は心理的苦痛を取り除くことよりも、内的動機と直接関係のある「精神的健康」を高めることの方がより重要なケースが圧倒的に多いからです。「社会で様々な経験をして成長したい」という動機は、いくらマイナス面を除去したところで魔法のように湧き上がってくるものではないのです。
ストレングス協会はこの「精神的健康」を高めることが、ひきこもり状態からの脱出のカギとなるというポジティブサイコロジーの理論を前提に支援をしています。従来のカウンセリングとそもそもの前提が異なるため、その結果も異なるのは当然なのです。
従来の心理学・カウンセリングは、「精神的苦痛」をいかに最小限にするかばかりが考えられていたが、「精神的健康」に関して全く触れられていなかった。しかし、実はこの「精神的健康」を高めることこそ、ひきこもり状態から前に歩み出すためのカギ!
では次にどのように「精神的健康」を高めることが出来るのかという話になりますが、ストレングス協会は不登校・ひきこもりのお子様の「強み」を活かすことが「精神的健康」を高める最も効果的な方法だと考えています。その理由をお伝えする前に、そもそも「強み」とは何かについて一緒にみていきましょう。
PART2 :「強み」とは何か?
よく「強み」と聞くと、「サッカーが上手」や「勉強が出来る」等を指す場合が一般的なのですが、これらはあくまでも知識やスキルであり、ポジティブサイコロジーが定義する「強み」とは異なります。
ポジティブサイコロジーの分野でも「強み」は様々な言葉で定義されていますが、ストレングス協会は、「思考・行動・感情のパターンで、本来感があり、使うと活力が湧いてくるもの」というイギリスの心理学者アレックス・リンレイ博士が提唱した定義を採用しています。一体どういう意味か?詳しく見ていきましょう。まず、①「思考・行動・感情のパターン」とは、ついつい考えてしまう・ついついやってしまう・ついつい感じてしまう「脳の癖」を指します。脳には多くの神経回路があり、その活動パターンは人それぞれ異なります。(因みに脳科学者の間では、一人ひとり異なることから、指紋のように「脳紋(のうもん)」と呼ばれています。)ある特定の神経回路は生まれつき、もしくは幼少期から特に多く使っているため、シナプス結合が強化されて「高速道路」のようになっています。例えば、FPSというシューティング・ゲームに熱中するお子様は「もしここに敵が現れたらこうしよう」と、ある状況に対して複数の選択肢をすぐに見つけることができる神経回路が非常に発達しているのです。その「高速道路」を使って物事を考え、実行すると、その回路に障害物がない分、脳内で情報が瞬時に行き来します。結果、自然とうまく出来るのです。私達はこのように生まれつき、もしくは幼少期から普段何気なくしていることを通して、独自の「思考・行動・感情のパターン」(脳の癖)をもつようになります。脳がある以上、誰しもが自然とうまく出来る「強み」を持っているのです。リンレイが定義する「強み」とは、まさにこの脳の「高速道路」を指しています。
この「思考・行動・感情のパターン」に続く「本来感があり、使うと活力が湧いてくる」というのは補足的意味で、②「本来感があり」とは、「本物の自分」という感覚を指し、「強み」を使っている時は「自分らしいな」と感じるような思考・行動・感情のことです。また③「使うと活力が湧いてくる」とは、「強み」を使うと、水を得た魚のように活き活きとエネルギーが湧いてくるというもので、これら3つの要素をリンレイは「強み」と定義しています。
その他、定義は多少異なりますが、ポジティブサイコロジーの領域では様々な研究によってこの「強み」も分類されています。米国VIA Instituteは古今東西の様々な文献研究を通して24種の「強み」を特定し、米国GALLUPはハイ・パフォーマー200万人をインタビューした結果、「強み」の元となる「脳の癖」を34種に分類、また英国Center for Applied Positive Psychologyは、Realise2という診断ツールを開発し、「強み」を60種に分類しています。
PART3:「強み」の科学的エビデンス
これらの「強み」がひきこもり状態からの脱出に重要であるのは、「精神的健康」を高めるからと上述しましたが、実際に、この「強み」と「精神的健康」の関連性についての研究は、様々な人口を対象に実施されています。例えば、2005年に発表されたセリグマンらの研究では大学生を対象に、「強みを見出し、活かす」という「ストレングス(強み)介入」をしたグループ(介入群)と、していないグループ(対照群)の2群に分け、それぞれの幸福度の差を研究しました。その結果、介入群はフォローした6ヶ月後まで幸福度が上昇したのに対し、対照群は何も変わらなかったのです。つまり、強みを日常生活で活かすことは幸福度を高めるということが明らかになりました。その他、強みを活かしている人達は人生満足度や自尊感情(自分には価値があるという感覚)、自己効力感(やれば出来ると思う感覚)がそれぞれ高いことも判明し、またポジティブサイコロジーが誕生する以前から独自に強みの研究をしていた米国GALLUPによると、強みを毎日活かしている人はそうでない人と比較し、生活の質(QOL)が3倍高く、また人生の使命を全うしていると感じている人がより多いと報告されています。さらに目が見えない視覚障害者を対象にした研究でも、強みは視覚障害に関わらず、幸福度や自尊感情と強い相関があることが明らかになり、「強み」と「精神的健康」との関連性は、様々な人口を対象にしながら実証されています。
さらに、2017年の研究では、従来の心理学をひっくり返すような画期的な報告がありました。それはこれまで「社交不安障害」と診断されていた人達を「強み」を切り口に分析した結果、ある特定の「強み」を使っていない、または使い過ぎている状態であることが分かったのです。つまり、これまで「私の中に何か問題がある」という見方しかなかったのに対し、「今の私の状況は強みを使い過ぎていた状態、全く使っていなかった状態、または自分の強みと真逆のことをしていた状態だ」という新しい見方が出来ることを示唆したのです。「私の人間そのものが問題」なのではなく、「ただ強みの使い方が間違っていた」と考えるだけで、不登校やひきこもりの若者たちは希望を取り戻すことが多々あります。何せ本来は自分を光り輝かせる「強み」なのですから。また「強み」の定義に「活力が湧いてくる」とあるように、「今の無気力状態は強みを使っていないからだ」という新しい見方も非常に理に叶うのです。
これらの研究結果は強み研究のごく一部に過ぎませんが、多くのポジティブサイコロジーの研究を包括的に考慮し、実践を積む中でストレングス協会は「強みにフォーカス」⇒「精神的健康の向上」⇒「不登校・ひきこもりから前進」というロードマップにたどり着きました。
PART4:「強み」を活かしたある男の子のケース
このストレングス協会のロードマップに関して、ある男の子の実例をみてみましょう。 その男の子は、高校受験でなんとか進学校に入学したものの学業不振で挫折して学校を辞め、ヤンチャな子から特別支援から入学した子まで、様々な子達がいる通信制高校に転校した子でした。
私達が出会った時、「自分はこんな環境にいること自体、もう負け組だ」とひどく落ち込み、部屋の壁に多くの穴が開いている状況でした。しかし、よくよく話を聴いていると、彼は「絶対に一番になりたい」とついつい思ってしまう「競争性」が人一倍強いことが分かったのです。彼は以前の進学校に在学中、やみくもにクラスで最も成績の良い子と比べて「自分はダメだ」と考え続けていたのでした。つまり、「競争性」という「強み」を使い過ぎていた状態だったのです。「偏差値」というモノサシの上では、以前の進学校の方が通信制よりも高い訳ですから、彼はついつい「自分は負け組だ」と考えてしまっていました。「競争性」を使い過ぎ、今の状況を受け入れられなかったのです。
一方、彼の話をさらに聴いていると、「感情的なぶつかり合いは避け、合意点を見つけて前に進めたい」とついつい考えてしまう「調和性」という強みもあることが分かりました。この「強み」は様々な人の意見をまとめ、共通項や合意点を見出し、前に進めていくことができる「強み」であり、点でバラバラな性格の子達が共存する環境で、実は誰よりも能力を発揮する可能性があったのです。彼との面談の中で今の学校では「競争性」ではなく、「調和性」で戦っていこうという作戦を立てたのを皮切りに、彼は行事ごとでリーダーの役割を買って出るようになり、見事にクラスの意見をまとめ上げたのです。
「進学校では皆同じような生徒が集まっていて、こんなバラバラな人達が集まる環境じゃなかった。自分の調和性をさらに磨くためには今の環境の方がいいと思うし、実際に社会に出て必要な力はこういうまとめたりする力だと思うから。」
これが、面談中に彼の口から出てきた言葉です。彼は「競争性」を使わず、「調和性」を使うように調整し、「自己効力感」や「目的」という「精神的健康」を高めることに成功したのです。
従来のカウンセリングでは、傾聴してお子様の「悪いもの」を吐き出すだけですので、このような結果に行く着くことはなかなか考えにくいものです。そもそもこのような発想すらないでしょう。勿論、愚痴を聞いてあげたら気持ちはスッキリしますし、思考も整理されます。しかし、それだけでは精神疾患とは考えにくい、多くの不登校や引きこもりの若者が、自発的に行動を起こし始めるプロセスには至りにくいのです。
実は上述したような研究結果が海外では次々と出ているにも関わらず、アップデートをせずに未だフロイトの「大前提」にしがみつくカウンセラーがあまりにも多いのが日本のカウンセリング業界の現状なのです。
ストレングス協会は「精神的苦痛」を無視するのではなく、「精神的健康」を高めるプロセスをより重視します。私達は科学的根拠をもって、お子様が本来もつ「強み」にフォーカスし、「精神的健康」を高めることで、ひきこもり状態から前に歩き出せるように支援いたします。なぜなら、「精神的健康」を高めることこそ、「不登校・ひきこもり支援」の「大前提」なのですから。
このようなアプローチにご興味がある親御様がいらっしゃいましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。